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10代の頃に読んだ冒険小説やファンタジー小説、歴史もの、恋愛小説をどれくらい覚えていますか。 あの当時夢中になって読んだ本の記憶は20代、30代と年を重ねても、なかなか色あせないものです。

わたしは、アンネの日記を読んだときの衝撃をいまだに忘れられずにいます。 自分と同じかあるいは幼い少女がどこか遠い外国に住んでいる。彼女は、いまの自分とは違って、ずいぶんいろんな点で不自由をしているようだ。はじめは些細なことから、しかし次第にはっきりと戦争の魔の手が日常生活の中にしのびよってきます。 日記というリアルな筆致を通して最後のページにまでたどりついたとき、アンネの運命に呆然として、しばらくベッドにうつ伏せていたまま立ち上がれませんでした。

こんな小説を10代のうちにしか読まないのはもったいない。 むしろいろんな経験を経て大人になった今だからこそ、読み直して、あらたな感動を得てみるのもいい。

というわけで、TIME誌が選んだヤングアダルト小説100選を、邦訳名つきでご紹介したいと思います。

ここに登場する小説はどれも多くの人が太鼓判を押すいわゆる定番もの、殿堂入りの作品ばかりです。 NetflixでTVシリーズを見るのに比べて、お手軽にかつ濃密な時間を過ごせることはまちがいありません。

ビジネス書や実用書、ライトノベルは少し脇において、10代の頃図書館で夢中になったあの本をもう一度手に取ってみませんか。

元ネタは、こちら The 100 Best Young-Adult Books of All Time

オリジナルのリストには順位づけはありませんでしたが、この記事を書くにあたって、英語版booklogこと、goodreads.comの登録数を元に、100位から1位まで並べてみました。

では、さっそくいってみましょう。

100位から91位まで

100.Kimberly Brubaker Bradley “For Freedom” (未翻訳)

第二次世界大戦。ドイツ軍の侵攻を許してしまったフランスで、祖国の勝利のためにレジスタンス軍に入りスパイとして戦い続けた少女の物語。

99. Pseudonymous Bosch “Secret"シリーズ (未翻訳)

小学生のお子さんが読んでいるというブログもあり、英語でも気軽に楽しめそうなシリーズです。「この本のタイトルは秘密である」という題名そのものが、謎かけになっていますね。

98. Gene Luen Yang “Boxers and Saints” (未翻訳)

こちらの本も未翻訳ですが、コミックですし、作者の方は中華系アメリカ人ということもあり、おもいきって原作にチャレンジしてもよさそうです。

97. Marilyn Nelson “A Wreath for Emmett Till” (未翻訳)

96. Frances Hardinge “The Lost Conspiracy” (未翻訳)

“The Lost Conspiracy”は、2018年4月現在日本で手に入れるのは難しそうですね。代わりに、翻訳のある「嘘の木」(The Lie Tree)からあたってみるのがよさそうです。

95. Cecil Castellucci “Boy Proof” (未翻訳)

94. ワット・キー「風の少年ムーン」

原題は、“Alabama Moon”。アラバマ州の森の奥で育った少年が父の死をきっかけに、人の住む町に出て行く話だそうです。

93. ピーター・シス「かべ―鉄のカーテンのむこうに育って」

原題は、“The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain”。著者シスの生まれ育った社会主義時代のチェコスロバキアを描いた作品。

92. ヒラリー マッカイ「サフィーの天使」

原題"Saffy’s Angel”。ポップでユーモラスな作品ということで、さくっと気分を変えたいときに開いてみるとよさそうな本です。2018年4月時点ではなかなか手に入りにくそうなので、図書館で探しましょう。

91.ロイド・アリグザンダー「プリデイン物語」シリーズ

The Chronicles of Prydian。「タランと角の王」「タランと黒い魔法の釜」「タランとリールの城」「旅人タラン」「タラン・新しき王者」の五冊が刊行されています。タイトルを見ただけで、指輪物語好きにはピンとくるものがありますね。

90位から81位まで

90. ダイアナ・ウィン・ジョーンズ「星空から来た犬」

原題 “Dogsbody”。「ハウルの動く城」「バビロンまで何マイル」で有名なイギリスのファンタジー作家。あのトールキンに師事していたとか。

89. リチャード・ヒューズ「ジャマイカの烈風」

原題 “A High Wind in Jamaica”。翻訳では、1977年に刊行されたものが、2003年に再刊されている。蝿の王に匹敵する、古典という位置づけのようである。子どもはけして、大人がそうであってほしいと願う「幼い人間」ではない。

88. フランチェスカ・リア ブロック「Dangerous Angelsシリーズ」

英語では、Weetzie Bat Books - Dangerous Angels。「ウィーツィ・バット」「ウィッチ・ベイビ」「チェロキー・バット」「 エンジェル・フアン」「ベイビー・ビバップ」の5作とも翻訳されている。 “ハリウッドに住むおしゃれな少女、ウィーツィ・バット。全米で人気のポップでリアルなストーリー"というタグラインで、すでにおなかいっぱいになりそう。

87. Walter Dean Myers “Fallen Angels” (未翻訳)

1967年、17歳のリッチーはハーレムの高校を卒業し、兵役に入り、ベトナム戦争に参加する。 Walter Dean Myersはアメリカではヤンドアダルト作家の大御所ですが、日本語に翻訳されているものは多くないのがもったいないですね。

86. クリス クラッチャー「ホエール・トーク」

原題"Whale Talk”。訳者の金原氏のあとがきが、彼のオフィシャルサイトの「スタッフおすすめ本」で読むことができる。 その訳者いわく、

テーマは重いが、物語は非常にテンポ良く、読み出すととまらない。物騒なジャングルを走り抜けるジープに乗せられたような、スリルとスピード感に翻弄されているうちに最後まで行き着いてしまう。 これほど読み応えのあるユニークな青春小説にはめったに出会えない。「奇跡」にも似た作品といっていい。

この言葉を受け取って通り過ぎることのできる本好きがいるだろうか。

85. エドガー・アラン・ポー「ポー短編集」

いわずとしれた、ミステリ小説の父でありホラー小説の元祖。彼の作品には常に死の雰囲気が漂っています。 名探偵コナンに飽きてきたら、ぜひポーやドイルの作品を手に取ってほしいですね。

なお、いくつかの短編は、青空文庫でも読めますよ。

https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person94.html

84. レモニー・スニケット「世にも不幸なできごと」シリーズ。

原題 “A Series of Unfortunate Events”。原作は、1999年から2006年までかけて13巻刊行されました。翻訳も13巻出そろっているようです。 映画化もされているし、TVドラマシリーズもあるようです。 内容は、とにかく、不運、不幸、災難のオンパレード。四の五の言わず、まずは一冊目を手に取ってほしい。

83. マイケル・モーパーゴ「兵士ピースフル」

原題”Private Peaceful”。第一次世界大戦に参加したとあるイギリス兵の実話に基づく物語。

82. ケイト・ディカミロ「虎よ、立ちあがれ」

原題”The Tiger Rising”。日本語版の本の表紙が素敵すぎる。

81. John Corey Whaley ”Where Things Come Back" (未翻訳)

アーカンソーの町に住む高校生Cullen。町は幻のキツツキ探しに大騒ぎ。弟は突然の失踪。そこに突然さしはさまれるアフリカでの別の物語。 これだけではなにがなんだかわかりませんが、最後には伏線が回収されて、弟の失踪の真相へとつながっていくようです。

80位から71位まで

80. T.H.ホワイト「永遠の王」

原題"The Once and Future King"より、“The Sword in the Stone”。有名なイングランドに伝わるアーサー王伝説にもとづくファンタジーです。 この第1部だけをディズニーが買い取り、「王様と剣」としてアニメ作品を制作していますね。

ちなみに、アーサー王伝説は、もともと民間伝承としてつたわっていたアーサー王、ランスロット、魔法使いマーリン、円卓の騎士たちの伝説を、15世紀頃トマス・マロリーがまとめて長編文学に仕立てあげたものです。 アーサー王伝説は、多くの人にインスピレーションを与えるようで、多くの派生作品が出ています。他のアーサー王作品と比べながら読んでみると、さらに楽しめそうです。

79. Jodi Lynn Anderson “Tiger Lily” (未翻訳)

こちらは、ピーターパンとティンカーベルの物語のリメイク。どうやら恋愛小説として語りなおされているようです。

78. ローリングズ「仔鹿物語(鹿と少年)」

原題”The Yearling”。少年少女版で読んだ人も多いはず。

77. イサベル・アジェンデ「神と野獣の都」

原題"La ciudad de las bestias"。タイトルのインパクトが強いですね。作者はチリの人で、オリジナルはスペイン語です。 アマゾンの探検隊に参加したアメリカの少年が現地に足を踏み入れていく冒険もの。

76. ポール・ジンデル「高校二年生の四月に」

原題”The Pigman"。近所に住むPignatiおじさんこと”Pigman"と、主人公であり高校生の、ジョンとロレーヌとの友情物語。アメリカでは授業で頻繁に取り上げられるほどの定番だそうです。 1974年に翻訳されていたことがあるようだが、ほぼ手に入らないので、図書館で探してみつからなければ、原作にチャレンジしよう。 再度訳し直すとしたら、タイトルは、ピッグマンにするだろうな、そっちのほうが絶対にキャッチーですからね。

75. キャサリン・パターソン「海は知っていた - ルイーズの青春」

原題"Jacob Have I Loved"。こちらの書評によると、オリジナル・タイトルは聖書からの引用のようです。 両親が妹ばかりかわいがるため疎外感を抱いて育ってしまったルイーズの心の葛藤物語。

74. スーザン・クーパー「闇の戦い」シリーズより「灰色の王」

原題"The Grey King"。こちらもまた、アーサー王伝説からの派生ファンタジー作品と言えるでしょう。

73. Jennifer Donnelly “A Northern Light” (未翻訳)

イギリスでは、“A Gathering Light"というタイトルに変更されています。 20世紀初頭のニューヨーク州で実際に起きたGrace Brown殺人事件が、Mattie Gokeyという架空の主人公を通して語り直される。 翻訳がないのがもったいないですね。

72. エドガー・ライス・バロウズ “ターザン”

原題 “Tarzan of the Apes”。知っているようで知らない物語。 いわゆる「ジャングルを守るヒーロー」としてコミカライズされた派生作品しか知らないから、世界中の現代人がこの作品を誤解しているのではないだろうか。 映画でもなく漫画でもなく原作を読むべき理由は、一番大切なことはいつも原作にしか書かれていないからだろう。

71. Ester Forbes “Johnny Tremain” (未翻訳)

1773年ボストンを舞台に、アメリカ独立戦争を描く。主人公は架空の人物ですが、サミュエル・アダムスなど歴史上の人物も登場する、本格的な歴史小説。 アメリカ独立戦争を知るのにうってつけの作品で、翻訳がないのがもったいないですね。

70位から61位まで

70. ロバート コーミア「チョコレート・ウォー」

原題"The Chocolate War”。とあるカトリック系の私立高校で、組織の論理を通す集団と自由を求めた個人の対立の物語。 アメリカは「個人の国だ、自由の国だ」と気楽に評されることもありますが、現実には組織の圧力が個人を押しつぶそうとする事態はどの社会にも起こりうるのです。 リアルに描かれたスラング、暴力、性的表現などを理由に、アメリカの多くの学校で禁書扱いとなっているとのことです。

69. M.T.アンダーソン「フィード」

原題は、“Feed”。近未来SFもの。NetflixのBlack Mirrorシリーズが好きな人なら絶対にはまれる作品。テクノロジー・ユートピアに見えるディストピア。

68. ロアルド・ダール「ダニーは世界チャンピオン」

原題は、“Danny, the Champion of the World"です。どの作品が選ばれてもおかしくない児童文学・ヤングアダルト文学の大御所ロアルド ダールの作品です。 父と子の話。英語も平易だそうなので、原作に挑戦してみるのもよさそうです。

67. Walter Dean Myers “Monster” (未翻訳)

87位で紹介した"Fallen Angels"の作者でもあるウォルター・ディーン・マイヤーズの代表作。殺人の罪を問われている黒人の少年の物語。 シリアスな物語ですが、アメリカという社会を知るのに、避けては通れないテーマを語っているのだと思います。

66. Pam Muñoz Ryan “Esperanza Rising” (未翻訳)

メキシコで何不自由ない暮らしをしていたエスペランサという少女が、不幸な事件をきっかけにカリフォルニアでの逃亡生活を余儀なくされるという移民物語。 作者自身、メキシコ系であり、自分のルーツを辿るような物語だとも言えるでしょう。ちなみに、エスペランサは、希望という意味です。

65. Gene Luen Yang “American Born Chinese”

立て続けに、移民2世の境遇に生まれた作家たちの自伝的物語が続きます。98位にも登場したGene Luen Yangの作で、やはりコミック形式です。 アメリカの白人社会に溶け込もうとする中国系の10代の子どもたち。3つの物語を持ちつつも、クライマックスにいたる構成がすばらしいという評判です。

64. ケイト・ディカミロ「愛をみつけたうさぎ エドワード・テュレインの奇跡の旅」

原題は、“The Miraculous Journey of Edward Tulane”。副題がそのまま原題の直訳です。 表紙とタイトルが素晴らしくて、もし本屋で出会ったらふとジャケ買いしてしまいそうです。 韓国ドラマ「星から来たあなた」のモチーフだそうですが、わたしはその方面に明るくなく、Amazonのレビューではじめて知りました。

63. レイ・ブラッドベリ「刺青の男」

原題は、The Illustrated Man。SFの大御所レイ・ブラッドベリの幻想短編集。

62. コルネーリア・フンケ「どろぼうの神さま」

原題"The Theif Lord”。ヴェネチアを舞台とした冒険活劇。このリストでは初のドイツ系作家ですね。

61. レベッカ・ステッド「きみに出会うとき」

原題"When You Reach Me"。これもタイトルとカバー絵が素晴らしすぎて、ジャケ買いしたくなります。 12歳の女の子ミランダが不思議なメモを「笑う男」から受け取ることではじまるタイムファンタジー。 著者は、“A Whinkle of Time"の熱烈なファンであることを公言していて、本書でもたびたびミランダが読んでいます。

60位から51位まで

60. Craig Thompson “Blankets” (未翻訳)

アメリカの作家Craig Thompsonによるコミックです。英語ではグラフィックノベルと説明されていて、いわゆるMarvel系のコミックとは別ジャンルという認識のようです。 丁寧に書き込まれた絵と胸を打つストーリーを堪能してください。

59. ベヴァリー・クリアリー「ビーザスといたずらラモーナ」

原題"Beezus and Ramona”。9歳のお姉さんビーザスが、やんちゃな4歳の妹ラモーナに手を焼かされていて、うんざり。 毎日子育てに四苦八苦している人のために。

58. ルイーズ・フィッツヒュー「スパイになりたいハリエットのいじめ解決法」

原題”Harriet the Spy”。ハリエットは、みんなの秘密や悪口を集めて「スパイ活動」に勤しんでいてたが、大切なそのノートを落としてしまい、いじめを受ける側になってしまうという物語。 過去には、「リエットのスパイ大作戦」というタイトルで映画化もされているようです。

57. アンドリュー・クレメンツ「合言葉はフリンドル!」

原題"Frindle"。厳格な国語教師に反抗して、ペンをフリンドルと呼ぼうと決めたニックが全国的な騒動をおこしていく。 普段使っている言葉を不思議に思う感性にはっとさせられます。

56. パメラ・リンドン・トラヴァース「風にのってきたメアリー・ポピンズ」

ディズニーによるミュージカル映画で、傘を差して空から舞い降りてくるシーンがあまりに印象的なこの作品。どんな物語かと問われても答えに窮する人も多いはず。 メアリー・ポピンズは、イギリス・ロンドンのナニーさんだったのですね。

55. Mildred D. Taylor “Roll of Thunder, Hear My Cry” (未翻訳)

1920年代の大恐慌時、ミシシッピ州南部での人種差別をテーマにした物語です。語り手は、9歳の少女キャシー。 子どもの目を通して見ることで、いかに悲惨な現実であったのかが浮き彫りになります。 「雷鳴よ、わたしの慟哭をきけ」というタイトルの力強さからも、怒りがにじみでています。

54. トレントン・リー・スチュワート「秘密結社ベネディクト団 」

原題 “The Mysterious Benedict Society”。世界征服をたくらむ悪の計画を阻止するためにこどもたちがスパイとして送り込まれる。 なんて筋書きだけを書くと薄っぺらい作品のように聞こえますが、謎解きミステリとして上出来で大人でも十分楽しめるうえ、道徳的な問題を考える材料もたくさん用意されています。

53. エリザベス・ジョージ・スピア「からすが池の魔女」

原題"Witch of Blackbird Pond"。 アメリカ独立戦争前のニューイングランドを舞台とした、少女の成長物語。 ピューリタンやクエーカー教徒の生活が丁寧に描かれていて、歴史を知る楽しみも。

52. マイケル・スコット「アルケミスト」シリーズ

原題"The Alchemyst"。パオロ・コエーリョの同タイトルの作品が有名ですが、それとは別作品です。 神話や歴史を駆使して、ファンタジーの王道を突き進みます。 「錬金術師ニコラ・フラメル」「魔術師ニコロ・マキャベリ」「呪術師ペレネル」「死霊術師ジョン・ディー」「魔導師アブラハム」「伝説の双子ソフィー&ジョシュ」の6巻立てです。

51. パトリック・ネス「混沌の叫び」シリーズより、「心のナイフ」

「混沌の叫びシリーズ」という名前だけで興味津々です。 お互いの思念がすべて筒抜けの世界に放り込まれた少年トッド。 続編「問うもの、答えるもの」「人という怪物」と3部作あわせて一気読みしたい。

50位から41位まで

50. エレン・ラスキン「アンクル・サムの遺産」

原題”The Westing Game"。サム・ウェスティングという富豪が16人の遺産相続人に対して、誰が自分を殺した犯人なのか謎かけをするというミステリ。 日本語訳は入手困難なようなのでこちらも図書館で探しますかね。

49. ブライアン・セルズニック「ユゴーの不思議な発明」

原題”The Invention of Hugo Cabret”。登場人物名だけを少し変えて、「ヒューゴの不思議な発明」としてマーティン・スコセッシにより映画化もされていますね。 文章のあいだに、美しい鉛筆画が織り込まれて、絵と文字で物語を編み上げています。映画の台本のような構成になっており、物語の細部を自分で想像するのが楽しい作品です。

48. ロバート・C.オブライエン「フリスビーおばさんとニムの家ねずみ」

原題は、“Mrs. Frisby and the Rats of NIMH”。動物実験により知性を得たねずみの脱出劇。 「アルジャーノンに花束を」は人間の知性について問う作品でしたが、こちらはより広く文明そのものについて問いかけてくるようです。「ニムの秘密」としてアニメ映画も制作されています。 ちなみに、ニムとは、「国立精神衛生研究所」(NIMH=National Institute of Mental Health)の略称です。

47. ケネス・グレーアム「たのしい川べ」

原題は、“The Wind in the Willows”。故郷であるインドランドの片田舎に帰省し、自然に囲まれた悠々自適の時間の中で紡ぎ出された物語。 子どもの寝かしつけのお話から発展して、快活な田園ファンタジーへとまとめあげられたのだそうです。 ただし、作家本人がロンドンの銀行勤めに倦み疲れて帰郷していたこと、この話を聞いて育った息子さんが、20歳を迎える5日前に不幸な運命を選択していたことなど、どうしてもこの物語が語られた背景にある現実に、思いを馳せずにはいられません。

46. パトリック・ネス「怪物はささやく」

原題は、“A Monster Calls”。51位「混沌の叫びシリーズ」のパトリック・ネスです。すでに死の淵にあったシヴォーン・ダウドの原案をもとに、パトリック・ネスが仕上げた作品です。近年映画化されて、知名度が上昇しましたね。 病気の母を持ち、いじめにあい、孤独な境遇にあるコナー少年の元に怪物がやってきて、彼に3つの話を語りかけます。そして、最後の夜、コナー少年が、自分の話を怪物に語りかけます。 だれしもコナー少年になりきって、彼の心の痛みに共感し、そして、自分の心の痛みを再発見することになる、つらく苦しい物語だと思います。

45. E.L.カニグズバーグ「クローディアの秘密」

原題は、“From the Mixed-Up Files of Mrs. Basil E. Frankweiler”。大人の入り口に立った少女クローディアが、家を飛び出し、弟を引き連れて、美術館へと冒険にでかける。 さわやかでスリリングな成長物語です。 大人になったら、ニューヨークまで旅をしてメトロポリタン美術館に訪れたいという夢を持った子どもたちをたくさん生み出したのではないでしょうか。

44. ガース・ニクス「古王国記」シリーズより「サブリエル―冥界の扉」

原題は、“Sabriel”。「サブリエル」「ライラエル」「アブホーセン」と続きます。科学の国と剣と魔法の古王国があり、その間には、創世記以来の壁が屹立している。 丁寧に作り込まれたマニア垂涎の世界観がたまりません。ワールドクラスの異世界ファンタジー、本を開いたら最後こちらの世界に戻って来られなくなりそうです。

43. David Levithan “Every Day” (未翻訳)

毎朝目覚めるたびに別人になっているという、さまよえる魂であるところのAさん(名前不明・性別不明)の、奇妙な恋愛物語です。 身体は変われど記憶は残り、昨日の恋愛感情は今日さらに増幅して心を捉えているというのです。 SF的な設定を受け入れられるなら、Aさんに共鳴しともに心を痛め涙することになるでしょう。

個人的には、こうしたファンタジーがきっかけとなって、自我や他者、存在することとはどういうことなのかと問う姿勢、つまり哲学的な興味へとつながってほしいと思います。

42. ジュディ・ブルーム「神さま、わたしマーガレットです」

原題 “Are You There God? It’s Me, Margaret."。なにか真剣な思いと裏腹に幼さも感じられる、タイトルが秀逸ですね。 まさに題名が示す通り、思春期を迎えた女の子が体と心の成長に悩み、宗教にとまどう姿が描かれます。 こうした10代の悩みや質問を自分はどれほど真剣に向き合ってきただろうか。いずれ自分の娘が思春期を迎えるときに親としてどんなサポートをしてあげられるだろうか。 少なくとも答えをはぐらかせたり問いから逃げない勇敢さは持ちあわせたいものです。

翻訳が古いのとテーマが宗教ということもあり、日本ではそれほど読まれていない模様。入手困難のようなので図書館にあたってみてください。

41. ジョン・ノールズ「友だち」

原題 “A Separate Peace”。名門私立学校で過ごした日々、特に運動神経がよく誰からも好かれた一人の少年のことを大人になった主人公が回想する。 故意ではないにしろ自分のせいで親友の人生の歯車は狂った。主人公の苦い思い出と、第二次世界大戦の魔の手がしのびよる時代状況があいまって、過去の重たさがずしんとのしかかってきます。 私立寄宿学校、男同士の友情となると、「風と木の詩」を連想するBL脳な方も多いでしょう。 作者自身は否定しているようですが、このような深読みについての議論はアメリカで活発におこっていたという報告がWikipediaに見つかります。

邦訳が古くて入手困難な一冊なので、こちらも思いきって原作で読むか、図書館で探してみてください。

40位から31位まで

40. アーシュラ・K・ル=グウィン「ゲド戦記」より「影との戦い」

原題 “The Wizard of Earth Sea”。まさに古典中の古典というべきファンタジー。ゲドが主人公なのは第1巻だけだし、戦記物でもないというWikipediaの言いがかりが面白いですね。 英語のタイトルにならって、アースシーシリーズでもいいのでしょうが、なにかしまりがありません。 広い海と無数の小島からなる世界で、魔法をテーマに物語は進みます。 「影との戦い」「こわれた腕環」「さいはての島へ」「帰還 -ゲド戦記最後の書-」「アースシーの風」「外伝(ドラゴンフライ)」の6巻が刊行されています。

映画?この世界を見事に映像化できたなら、ぜひ1度拝見したいものですね。

39. シャーマン アレクシー「はみだしインディアンのホントにホントの物語」

原題は、“The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian”。 インディアン保留地で生まれ育ったアーノルド小年が、外の世界、つまり白人社会の中に入っていく中で、自分のアイデンティティを見つけ出す成長物語。 「インディアン、ウソつかない」という醜いステレオタイプが跋扈していた時代の記憶がある世代にとっては、なんとも切ない気持ちになる邦題であるが、原題をみると、忠実に訳そうとした努力とも受け取れなくはない。

38. ノートン・ジャスター「マイロのふしぎな冒険」

原題は、“Phantom Tollbooth” (「魔法の料金所」)。何にも興味を持てなかったマイロ少年が、突然現れた異世界行きの料金所を通行して、奇妙な旅にでかける成長物語。 冒険を通して、学校の勉強の意味、学ぶことの意義、そしてこの世界はけしてつまらない場所ではないことをマイロ少年が理解していくというプロットが、ぐっときます。 1960年頃の作品ですが、英語圏ではすでに古典として扱われているようです。 2017年に映画化がアナウンスされたので、そろそろ日本でも再販されるとうれしいですが…

なぜか原書のKindle版は250円と大安売りです。

37. ローラ・インガルス・ワイルダー「大草原の小さな家」

原題 “Little House on the Prairie”。少年少女版で読んだことがあるか、あるいは昔懐かしのTVシリーズでなじみのある方も多いのではないでしょうか。 インガルス一家の物語シリーズとして、1932年に「大きな森の小さな家」から1971年まで9作刊行されました。 娘がこの本を手にしたとき、はたしてインガルス家の父親のような存在で自分はいられるのだろうかと自問してしまいそうです。

36. ゲイリー・ポールセン「ひとりぼっちの不時着」

原題 “Hatchet”。両親が離婚したため、夏休み父親に会いに行くために一人飛行機に乗ったら、不時着。 奇跡的に一命を取り留めたブライアン少年は出発前に母からもらった手斧(ハチェット)だけを頼りに、大自然の中をサバイバルする物語です。 森林の中でなんとか生き延びようとするブライアンの生命力のたくましさと、両親の離婚の秘密に揺れる心の対比に、切なさを感じます。

35. ジャック・ロンドン「野性の呼び声」

原題 “The Call of the Wild”。岩波文庫では、「荒野の呼び声」という題名で収録されています。 売り飛ばされてはこき使われる橇犬であるバックが主人公です。 しかし、バックは、厳しい氷の世界で苦難の境遇にあっても、常に、強く、賢く、勇敢でありつづけ、けして誇りを失いません。 人間よりも犬の方が気高い魂を持っていることが全く違和感はなく不自然さがないという点において、とても完成度の高い名作です。

34. ライマン・フランク・ボーム「オズの魔法使い」

原題は、“The Wonderful Wizard of Oz”。子どもの頃、ミュージカル、映画などでこの作品に触れた人も多いだろう。 いまさら何の説明もいらないだろう。殿堂入りした古典であり、ファンタジーや児童文学だけではなく、20世紀のエンターテインメント全般に大きな影響を残した作品だ。 大人になった今、ぜひボームと作画のデンスロウが自腹をはたいてまでこだわったフルカラーの装丁を堪能してほしい。 すでに原作はパブリックドメイン入りしており、米国議会図書館のサイトから、1900年初版本の装丁が閲覧できる。 ページをめくる楽しさはいまだに色あせない。

33. ニール・ゲイマン「墓場の少年: ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活」

原題は、“The Graveyard Book”。一家惨殺事件の生き残りである赤ん坊は、墓地に迷い込み、幽霊たちに育てられる。 二大児童文学賞とも言える英・カーネギー賞と米・ニューベリー賞を同時受賞した初めての作品なのだとか。 殺人という重いテーマを児童書で扱いながらも、ユーモアやミステリをうまくからませて、すでに古典として読めるような完成度の高さです。

32. ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」

原題 “Alice’s Adventures in Wonderland”。だまし絵、言葉遊び、忘れることのできないプロット、癖のある登場人物、 人間が持ちうる想像力を最大限に活かしきった奇跡、読むたびに発見がある結晶のごとく光を放つ作品。 どれだけの賛辞を送っても足りない気がします。

31. ロイス・ローリー「ふたりの星」

原題の"Number the Stars”。第二次世界大戦化のコペンハーゲンで、勇敢な市民たちがユダヤ人を中立地であるスウェーデンへの逃亡の手助けしたという実話を元にした物語です。 原題の「星を数える」というタイトルは、聖書の詩編から取られており、日本語訳の星は、ユダヤ教の象徴であるダビデの星を表しています。 映画俳優のSean Astinが数年前に映画化の権利を獲得したとアナウンスされているので、そろそろ近いうちに公開されるのかもしれません。

30位から21位まで

30. キャサリン・パターソン「テラビシアにかける橋」

原題は、 “Bridge to Terabithia”。レスリーとジェス、孤独な者同士が仲良くなり、二人で空想の王国「テラビシア」をつくりあげた。 レスリーは不慮の事故により川に流されてしまう。レスリーの死をなかなか受け入れられないジェスの心理の描かれ方に目を見張る。 映画化されており、そちらも好評なようです。

29. ローリー・ハルツ・アンダーソン「スピーク」

原題も"Speak”。夏休み中のパーティーでふりかかってきた事件をきっかけに友達の顰蹙を買い、ひとりぼっちになってしまったレイチェル。 事件のことも本音も誰にも言えず、心を閉ざしたまま彼女はじっと孤独に耐え続け、口もきかなくなってしまいます。 沈黙するとは、他者に対してだけではなく自分を騙すことでもある。なので、レイチェルのつらさに共感を覚え、ともに苦しむのでしょう。

28. C.S.ルイス「ナルニア国物語」

原題は、“The Chronicles of Narnia”。 「Chronicle=年代記」でありますが、執筆の順序はばらばらで、どういう順序で読むべきかという議論がわきおこりました。 著者のルイスは、時系列に読んでほしいという趣旨の手紙を書いたそうですが、評論家たちは出版順に読んだ方が物語の輪郭がわかりやすくなると反論しています。 個人的には、発表順に読むことで著者の書き方や関心の変化を見いだす楽しみがあるので、物語時系列にこだわる必要はないと思っていますが。

ながらく岩波少年文庫の、瀬田貞二訳が定番でしたが、2017年から河合祥一郎氏が角川つばさ文庫で新訳を試みておられます。 瀬田訳に慣れ親しんだ世代からすれば、表紙を見ただけでブーイングが巻き起こりそうですが、今の子どもたちにも手に取ってもらうために時代に合わせてアップデートしている出版社に敬意と期待をこめて、河合訳を手に取ってみたいと思います(2018年4月現在2巻まで刊行)。

27. J.R.R. トールキン「指輪物語」

原題 “The Lord of the Rings”。誰しもが認める現代ファンタジーの元祖であり最高峰。 少年少女時代に読んでいなかったとしても悔やむことはない。今から読んでも十分堪能できます。 この作品に関してはネタバレはほとんど意味を持たないと思います。プロットをたどることよりも、物語世界の中に入り自分だけのキャラクターを動かしたくなります。 VR化されてほしい伝説世界No.1。

26. ロアルド・ダール「マチルダは小さな大天才」

原題"Matilda"。ダメな両親に育てられた頭の良い少女マチルダが大活躍する物語。彼女がどうしてくさらずにまっすぐ育つことのできたのか。 読書好きとしては、きっと彼女がたくさんの古典を自分の意志で読んだからだろうと考えたくなります。

英語ですが、ケイト・ウィンスレットによるAudiobookもおすすめ。

25. R・J・パラシオ「ワンダー Wonder」

原作は2012年発行で、もしかするとこの100冊の中で最も最近出版された作品かもしれません。顔の形がみんなと少し違うオーガスト少年。それだけのことが彼の人生を大きく変えてしまいました。 彼の周囲の子どもたちの視点も合わさり立体的に描くという構成の妙も手伝って、深い余韻を残す力強い物語になっています。 2017年にアメリカで映画化され、日本では2018年6月に公開予定です。

24. ロアルド・ダール「チョコレート工場の秘密」

原題は、“Charlie and the Chocolate Factory”。そう、ティム・バートンとジョニー・デップの映画で有名ですが、ジーン・ワイルダー主演の1971年の映画も捨てたものではありません。 子どもの頃はチョコレート工場という夢のような舞台にわくわくしていましたが、大人になると、ウィリー・ワンカという魅力にみちた謎の男のことが気になってしかたありません。 マチルダもそうですが、ダールの作品はどれも平易な英語で書かれており、英米では読み聞かせの定番になっています。

23. L・M・モンゴメリ「赤毛のアン」

原題は、“Anne of Green Gables”。この作品からはじまって、アン・シャーリーが晩年を迎える「アンの想い出の日々」まで11作が刊行されています。 カナダのプリンス・エドワード島を舞台に繰り広げられる美しい「日常」の風景。 村岡花子訳に親しんだ方たちが多いでしょうが、角川つばさ文庫の河合祥一郎訳が現代的で断然おすすめです。 いつか子どもを連れて聖地巡礼したいものです。

22. ウィリアム・ゴールドマン「プリンセス・ブライド」

原題 “The Princess Bride”。「明日に向かって撃て!」などの映画脚本で有名なウィリアム・ゴールドマンによる奇書。 作者が最も気に入っているファンタジー小説を紹介するという体で話が進行するが、メタフィクションになっており、作品解説すらファンタジーです。 ひねりがきいており、口元がゆるみっぱなしになるでしょう。

21. S.E.ヒントン「アウトサイダーズ」

原題 “The Outsiders”。文学や映画を好み繊細な感性を持つポニーボーイ少年が、町を二分するグループ間の抗争に巻き込まれていきます。 登場人物たちの心情が非常にリアルに描かれており、あなたが同世代なら等身大の共感を、すでに大人になっていたとしても、あの頃の自分の葛藤を思い返すことでしょう。 フランシス・コッポラによる映画も高評価で、スティーヴィー・ワンダーによる主題歌「Stay Gold」に涙腺がゆるみます。

20位から11位まで

20. マデレイン・レングル「五次元世界のぼうけん」

原題"A Wrinkle in Time"。物理学者である父が突然姿を消し、13歳の少女メグが時空を越えて父の消息を探し求めるSFファンタジーの古典です。 キリスト教的勧善懲悪物語がベースですが、画一的な規範を求める全体主義的な社会やその枠にはまらない才能をもった子どもたちというテーマも見いだせます。 日本語は決定的な訳がないようですが、2018年4月現在アメリカやイギリスではディズニーによる映画が公開されているので、日本での興行にあわせて、再刊されるかもしれません(期待)。

19. ルイス・サッカー「穴」

原題は、“Holes”。悪ガキたちを集めて穴を掘らせることで更生させるというグリーン・レイク・キャンプに送られることになってしまったスタンリー少年。 穴をほる意味は何なのかという謎ときであり、スタンリー少年の成長物語でもあります。 ユニークな設定、みごとなストーリーテリング、さわやかな結末、ヤングアダルト文学に求めるものがすべて入っているといっても過言ではありません。

18. ジョン・グリーン「アラスカを追いかけて」

原題は、“Looking for Alaska”。ジョン・グリーンという新しい才能が誕生したのはヤングアダルト文学界にとって、とても幸せなことでしたね。 この作品が彼のデビュー作、2005年の作品です。ぱっとしない高校生パッジがアラバマの寄宿学校に入り、アラスカという名の破天荒な少女に恋をする。 思春期特有の出口の見えない感情の揺れがにじみ出ており、ときにはデタラメな言動になったりもするが、すべてを含めて若さとは美しいなぁと。

ちなみに、ジョン・グリーンは、YouTuberとしても有名で、弟のHankと数々のVideoをYouTubeに公開しています。

https://www.youtube.com/user/vlogbrothers

17. マーク・ハッドン「夜中に犬に起こった奇妙な事件」

原題は、”The Curious Incident of the Dog in the Night-Time"。 「異様にこだわりの強く記憶力が極端に良く数学が得意で普通と違った」クリストファー少年が隣の家の犬を殺害した犯人を追い、いつのまにか失踪した母を探す冒険へと展開していきます。 この一風変わった少年の目から見える世界が興味深く、どんどん引き込まれていきます。 そして、いつのまにか、奇妙に思えた彼のことが仲の良い友達のようになり、彼の成長に深い共感を覚えてしまいます。 時折登場する数学の問題も面白い。

16. マーク・トウェイン「ハックルベリー・フィンの冒険」

原題は、“The Adventures of Huckleberry Finn”。 これぞアメリカ文学。舞台こそ古き良き時代のアメリカではあるが、ハックの精神は現代にまでつながっていると喝破するのは、最近新訳を出した翻訳者の柴田元幸さん。 読み返すたびに、生粋のアウトサイダー・ハックからいつも新しい学びを得られます。 10代、20代、30代、40代と10年おきに読み返して自分の感じ方の違いを発見したい、そんな名作です。 柴田訳のKindle化が待たれます。

15. フィリップ・プルマン「ライラの冒険」シリーズより、「黄金の羅針盤」

原題は、シリーズ名が"His Dark Materials"で、第1部は、“Northern Lights”(オリジナル)または"The Golden Compass"(アメリカなど)です。 ダイモンという守り神が人間にはついている世界で、11歳の少女ライラが冒険にできるファンタジー。 原罪をめぐる議論などキリスト教神学的なテーマを扱っているために物語の面白さとは関係のないところで騒音が聞こえてきますが、それを理由に毛嫌いするのはあまりにもったいない。 映画は中途半端なところで製作がストップしてしまったようなので、ぜひ小説で楽しんでください。 シリーズは「神秘の短剣」「琥珀の望遠鏡」と続きます。

14. E.B. ホワイト「シャーロットのおくりもの」

原題は、”Charlotte’s Web”。農家の少女ファーン、ウィルバーという子豚と、同じ納屋に住むシャーロットという蜘蛛をめぐる友情物語。 原作は1952年作で、何度も映像化されている、児童文学の古典です。子どものとき、はじめて死というものを意識したときのことをおぼえているでしょうか。 人は身近な生き物から死を学び、そして徐々に自分の死へと向き合いはじめます。今も本書が愛読されているのは、実に美しい物語の中に死の意味を考えさせる重みがそなわっているからではないでしょうか。

13. オルコット「若草物語」

原題は、“Little Women”。「風と共に去りぬ」と同じく南北戦争時代のアメリカを舞台にした自伝的小説。メグ、ジョー、ベス、エイミーの四姉妹の成長が描かれます。 日本では「若草物語」という訳のすばらしさも手伝って、多くの人に読まれてきた古典です。 折り目正しいピューリタンの一家らしく、聖書や天路歴程への言及がたびたび見られ、宗教に敬虔であった時代のアメリカの姿を垣間見ることができます。 現代の生活と比べると、この時代の生き方のほうが、近未来SFよりも遠くかけ離れたものに思えてしまいますね。

12. ギヴァー 記憶を注ぐ者

原題 “The Giver”。ギヴァー4部作の第1作目です。苦痛や諍いのない理想社会の姿を描く近未来SF。しかし、その社会はけして理想郷とは言いがたいディストピアともいうべき管理社会でもあったのです。 記憶を受け継ぐものとして選ばれたジョナス少年が、この奇妙に幸福な同一化社会に対して反旗をあげる物語。 個人の自由というものは、普段扱いに困るわりに、一度失うと取り返すのが非常に困難であるということがとても示唆的です。 以降、「ギャザリング・ブルー」「メッセンジャー」「SON」と続きます。

11. 本泥棒

原題は、“The Book Thief”。ナチス政権下のドイツに生きる9歳の少女リーゼルを「死神」が目をつけたというところから物語ははじまる。 読み書きを覚え、たくさんの(盗んだ)本に触れて、リーゼルは知識の目が開かれていきます。 言葉の力を信じることは、人間を信じることであり、けして誰かの手によって統制されてはならないものなのです。 検閲という言葉が報道記事で踊る昨今だからこそ、ぜひ読んでおきたい一冊です。

10位から1位

10. リック・リオーダン「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズ

原題は、“Percy Jackson and the Olympians”。原題アメリカとギリシャ神話の競演が楽しいファンタジー作品。 ある意味では凡庸なアイデアから、ここまで大きな物語として膨らませ続けた筆力に圧倒されてください。本シリーズだけで「盗まれた雷撃」「魔界の冒険」 「タイタンの呪い」「迷宮の戦い」「最後の神」と5作品、続編シリーズ「オリンポスの神々と7人の英雄」も「消えた英雄」「海神の息子」「アテナの印」「ハデスの館」「最後の航海」の5作。 さらに、外伝(Short Stories)もあり、一大世界を築き上げています。 現代ファンタジーらしく、映画やゲーム、グラフィックノベルなどのメディアミックス展開もされており、長く深く入り込める作品。 ギリシャ神話からパーシージャクソンに入っていくもよし、パーシージャクソンからギリシャ神話に入っていくもよし、一生の宝になる作品だと思います。

9. ウィリアム・ゴールディング「蝿の王」

原題 “Lord of the Flies”。イギリスの小学生たちが疎開中に敵機に狙撃され、無人島に不時着する。サバイバル生活開始とともに、美少年ラルフは少年たちをまとめようとします。 しかし、少年たちによる自治はうまくいかず、集団は分裂し、少年たちは徐々に「得体の知れない不安」に取り憑かれていきます。この不安の描写がリアルで、ホラー小説とも言うべき様子です。 大人がここにいればと少年たちは島の外に救いを求めますが、島の外では、当の大人たちが戦争に開けてくれているという事態を目にすることになるのです。

2017年ハヤカワより新訳が出ています。

8. アンネ・フランク「アンネの日記」

原題"The Diary of a Young Girl"。才気煥発な14歳の少女アンネの日常が、みずみずしい鋭い観察眼によって描かれている。 ただ、その日常が、ナチスによるホロコーストから逃れるための潜伏生活であり、密告によって彼女の日記はとだえてしまうという悲劇的なものであった。 アンネの将来の夢は作家になることであった。いま彼女の言葉を読むたびに、彼女の夢はかなったことを讃えるとともに、彼女の命があまりにも悲しく散ってしまったことに胸をいためます。

7. J.D.サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」

原題は、“The Catcher in the Rye”。アメリカの青春文学の傑作。 周囲の俗物な大人たちをくだらないと唾棄し、妹フィービーの純粋さに心を打たれている、それ自身とてもピュアな感性の持ち主ホールデンのあるクリスマス付近の物語。 とがりぶつかり悩み傷つく思春期の心理が、見事にストーリーに織り込まれている。 読んだ誰もが「ホールデンはオレだ」と思いこむという、強烈な共感体験が待っています。

6. J.R.R. トールキン「ホビットの冒険」

原題"The Hobbit"。のちに指輪物語へと続いていく中つ国ファンタジー世界の幕開けとなった作品。ホビットと呼ばれる小人たちが竜の山を目指す冒険譚です。 このホビットの物語の頃から、話の舞台となる世界にはすでにディテールが与えられており、小人、魔法、竜、ゴブリンなど、わたしたちの愛するファンタジー世界の登場人物はそろっています。

翻訳は、まずは岩波書店版瀬田訳で物語を一周楽しんでみることをおすすめします。

5. ジョン・グリーン「さよならを待つふたりのために」

原題は、“The Fault in Our Stars”。21位に登場したジョン・グリーンのいまや代表作です。病気を抱えた少年オーガスタスと少女ヘーゼルの恋愛物語。 二人が作中で訪れるアムステルダム旅行は、憧れの作家ヴァン・ホーテンの思いがけない態度によって台無しになってしまいますが、その事件がかえって、旅行を忘れがたいものにしています。 二人が交わす言葉がどれもきらきらとまぶしくて、途中からずっと涙腺が崩壊し続けてしまいます。 あらためて、ジョン・グリーンという才能に感謝ですね。

4. ハーパー・リー「アラバマ物語」

原題は、“To Kill a Mockingbird”。いまだに人種に対する偏見がはびこるアメリカの地方都市にて、自分の信念を貫いて黒人被告の無罪という正義を押し通す弁護士の姿を描く。 物語の語り手は弁護士の娘であるスカウトであり、彼女の目を通して描かれる父の姿がとてもまぶしいです。 偏見はいまだぬぐいさられていないテーマであり、この物語が提示したテーマはいまだに大きな問題であり続けています。 1962年作成の映画も非常に評価が高いですね。

3. ステファニー・メイヤー「トワイライト」

原題"Twilight”。転校生のベラは、気になる男子エドワードと運命的な恋に落ちる、というと、学園ラブコメストーリーのようですが、 エドワードがヴァンパイアであるというひねりが、一気に物語を深みのあるファンタジーへと変えています。 イケメンかつミステリアスなエドワードとの禁断の恋に夢中になった女性が世界中に誕生したのだとか。 恋愛が命がけであるという真理を描ききっています。

2. J.K.ローリング「ハリー・ポッターと賢者の石」

原題は、“Harry Potter and the Philosopher’s Stone”。みんな大好き魔法学校物語です。 全7巻で、完結したのはもう10年も前のことなのですね。 人生で1度は全巻読み切っておきたい現代人の基礎教養とも呼べるシリーズではないでしょうか。

1. ハンガー・ゲーム

原題 “Hunger Games”。近未来国家パネムにおいて、毎年開催される少年少女たちによるバトルロワイヤル「ハンガーゲーム」。 主人公の少女カットニスがこのハンガーゲームに参戦し、次第に国全体を巻き込む大きな戦いへと挑んでいきます。 なぜ彼らは殺し合わなければならなかったのか。殺人ゲームのリアリティショー、反乱を抑制する社会機構などカットニスが住む管理社会は、現代社会への風刺とつながります。 人は自分が生まれてくる社会を選択することはできないが、その中でどのように生きるのかは選ぶことができる。 カットニスの凜とした戦い方に胸が熱くなります。

おわりに

というわけで、Time誌が選ぶヤングアダルト文学の100作品を一気に紹介してみました。 アメリカの雑誌によるセレクトなので、自分が読んできたものは少し違う新鮮なリストになっているように思います。

100作品中19作品は日本語未翻訳。さらには翻訳の年代が古くていまでは入手困難なものもたくさん見受けられました。 多くの作品、とくに上位の作品はほとんどが映画化されており、原作は知らなくても映画ですでに見聞きしているものも多かったですね。

この中から人生の宝となるような作品が見つかりますように。

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