o3c9

23 minute read

ハイディ・グラント・ハルバーソンの「Succeed(邦題やってのける 意志力を使わずに自分を動かす)を再読した。どうすれば目標を達成できるのか。社会心理学者がこれまでの知見を結集してまとめた結晶のような本である。その他の自己啓発本と違うのは、「○○すれば必ず成功する」という甘い言葉で読者を誘惑せずに、あくまで実証されたエビデンスに基づき、最善の策を提供してくれることである。

目標達成には日常の行動に変化をもたらすことが不可欠であり、それはけして簡単に実現できるものではないことを著者は認めている。その上で、そう複雑なことでもないし、誰にでも目標達成は可能であると断言する。

どんなことにチャレンジするにしても、成功の確率を高い方法を知っているか知らないかだけで、その成否を大きく分ける。ただやみくもに汗をかくのも、どうせ自分にはできないからとはじめから諦めてしまうのも、どちらも、あまりにもったいない。だれもが、自分のやるべきことを見つけ出し、その挑戦が報われるようになってほしい。

そこで、本書から学んだ知識をもとに、より実践的に目標達成までの道のりをまとめてみて紹介したい。他人のマネジメントである7章、13章や、諦めることをすすめる12章は除外して、自己管理にフォーカスした章だけを対象にしている。

unsplash-logoJames Chou

まとめ

目標達成にいたる道を5つのステージにわけてみた。

  1. 目標を立てる
  2. 自分のくせを知る
  3. 事前準備をする
  4. 計画を実行する
  5. 計画を定期的に振り返る

この5ステップを意識して毎日の行動を変えていけば、誰にでも、目標は達成可能である。これは、成功のためのアルゴリズムであり、あなたというマシンがこのアルゴリズムを実行し続けるかぎり、ゴールは近づく。

以下、それぞれのステップについて具体的に説明しよう。

ステップ1. 目標を立てる

目標は「具体的でかつ難易度の高い」ものでなくてはいけない。具体的とはどういうことか。達成のラインを、自分以外の人、たとえば見ず知らずの道行く人にたずねても判断できるように、はっきりと決めておくことである。「やせる」「金持ちになる」という目標は、どの程度を目指せばいいのか不明瞭なので、いい目標ではない。却下。主観ではなく数字をきちんと入れよう。「体重を60kgにする」「貯蓄を1000万にする」と目標値を加えれば、万人が公正にジャッジできる。よし、採用だ。

また、十分に難易度が高くないと、やる気も成果も出ない。ハルバーソンが言うには、「人は求められること以上のことはやらないものである」とのこと。人間とはそもそも怠惰な生き物であるという認識はつねに忘れずにいたい。もちろん、どれほど難易度が高くとも、目標は達成可能でなくては意味がない。オリンピックに出たいと夢想することはかまわないが、目標として設定するのならば、十分に達成可能である自信があるのか自分の胸に聞いてみよう。

目標を書き出すときには、三つのポイントをおさえよう。

一つ。なぜ、その目標を達成したいのか。つまり、自分にとって、その目標がなぜ大切なのか考えておこう。同じ「やせる」という目標であっても、肥満かつ糖尿病に悩む人と、見た目をスリムにして若かった頃の服をもう一度着たいという人では、意義が異なる。

二つ。目標達成にはどんな行動が必要なのか。目標達成までに必要な手順をなるべく事前に明らかにしておこう。希望通りに「やせる」ためには、どれくらいの運動とどれほどの食事制限が必要だろうか。もし自分で判断できない場合には、相談できる相手はいるだろうか。あるいは参考にできる本のあてはすでにあるか。行程が不明瞭であれば、ゴールにはたどり着けない。

最後に、期限を決めること。期限がないと、目標は抽象的なイメージでしかない。「いつかやる」と言っても、そのいつかは、自分で期限を決めて引き寄せないかぎり、けして来ない。実行可能な具体的な行動を意識するためには、それほど遠くない未来に期限を設定する必要がある。

「ステップ1. 目標を立てる」のチェックリスト

  • 目標は具体的で、達成の是非を客観的に判断できるか
  • 目標の難易度は十分に高く、かつ実現可能か
  • 目標を「なぜ」するのか、十分に明らかであるか?それは、あなたにとって大切な目標か
  • その目標のために「なに」をするのか、実行の内容は十分に明らかであるか
  • 目標の期限は「いつ」か

ステップ2. 自分の癖を知る

次に、自分の思考や行動の癖について、あらかじめどんなタイプに最もあてはまるか、理解しておく。自己分析というほど大げさなものではない。本書には、いくつかの質問項目が載っているので、臆せず素直に答えていけば、本書の範囲でいう自己分析は完了する。

一つ目の軸は、あなたががんばる理由はなんであるかだ。周りから評価されたい、いい給料がもらいたい、賞状が欲しい。こうした承認欲求が強い人を「証明型」と言う。自分の能力を十分に見せつけることで賞賛されることに喜びを感じる人だ。一方、自分の成長や上達、技能の習得に強い欲求を示す人は「習得型」である。

二つ目の軸は、得ることと失うこと、どちらに関心の重点はあるだろうか。とにかく得点をゲットしたい、狙った獲物を仕留めたいという攻撃的ポジション、つまり「獲得型」か、失点をしたくない、今の自分の義務や責任を全うすべきだと考える防御的ポジション、つまり「防御型」か。

転職ひとつをとっても、両者では行動のきっかけが全く異なるだろう。より自分の能力を生かせる機会を探索して求職する「獲得型」と、現在の職の将来性に不安を感じて、より安定した場所を望む「防御型」。目標に向かうモチベーションがまるで異なるのである。

誰しもどちらかに偏った思考を持つものであるが、状況に応じて、フォーカスを変えれるようになることが重要であると著者は説く。つまり、目標を開始するときには「獲得型」の得意な短期間のモチベーションアップを利用し、その後継続するにあたっては「防御型」の慎重かつ着実な姿勢をつらぬくといい。

最後に、幸福な人生についての心理学の知見を紹介する。DeciとRyanの「Self-determination Theory(自己決定理論)」によると、「関係性」「有能感」「自律性」が基本的欲求なのだという。他人との良好なつながりを保ち、自分の得意なことに自信があり、かつ、主体的な行動を取れる自由を有することが、人生の幸せだということだ。

特に最後の主体性は、目標達成の秘訣である。なにごとであれ、自分の意志でやっていると感じられること、つまり__内発的動機づけ__にまさるモチベーションは存在しないのである。どんな目標に魅力を感じるか、自分で問うてみてほしい。押しつけられた目標はけして達成できない。自分でやりたいと思えるものだけを選び取るべきだ。

「ステップ2. 自分の癖を知る」のチェックリスト

  • あなたは「証明型」か「習得型」か
  • あなたは「獲得型」か「防御型」か
  • 自分の価値観や信念に沿った目標を持っているか。自分の目標だと思えるか

ステップ3. 事前準備をする

ステップ2までは座学編だとすれば、ここから実践編だ。事前準備は実践であり、読んで内容を理解すればいいと言うものではない。実際に、準備を遂行してほしい。

まずは__環境作り__だ。意志の力でがんばろうとするのは、負け戦である。ライターとたばこをポケットに入れたまま、禁煙をすることはできない。たばこをやめるなら、自分の生活空間のありとあらゆるところからたばこを駆逐するべきだろう。たばこがなければ吸わなくてすむのである。このように、意志の力でがんばらなくても、ただそこにいるだけで目標達成できてしまうような場所を整備することが、なにより重要だ。

環境作りには創意工夫が必要だし、場合によっては、ものを捨てなくてはいけない心理的抵抗や、新たに何かを買わなくてはいけない経済的負担も発生するだろう。しかし、このコストを惜しんでしまっては、あなたの目標は遠いものになってしまう。やると決めたら、身の回りの環境を思い切って目標達成のために最適化してしまおう。

さらに目標を可視化して、他人にも見えるようにするといい。「禁煙」と書いた紙を家中の壁に貼り、スマホの待ち受けにして、会社のPCの壁紙も変えてしまおう。「そんな程度で変わるはずない」と思われるかもしれないが、毎日のことなのである。こんなことがあなたの意識や行動に非常に大きな影響を与える。

次に__目標達成までの見通し__を立てておこう。どれほどの難易度だろうか。どれほどの時間がかかるだろうか。ハルバースタムは、ポジティブに考えることの大切さを説くと共に、ポジティブバカになって無闇に現実から目を背けるのもまた愚かだと言う。目標達成までの道のりをけして甘く見ずに、今後起こりうる難局に立ち向かう方法を想定しておこう。禁煙・禁酒なら「飲み会に誘われる」というイベントは、きっと起こりうる困難のひとつだ。断るのか誘いに乗るけれど禁煙・禁酒をつらぬけるのか、十分に対処法を練っておこう。

こうした物事の裏表を把握する方法として、__メンタル・コントラスティング__というテクニックが紹介されている1。具体的には一つの目標に対して、得られるメリットを書き出し、そのあとに乗り越えなければならない障害を書き出す。そして障害を乗り越えるための対処法までもきちんと計画に入れておこうという話だ。

ようやく、いよいよ__具体的な計画を立てる__ことができる。十分に具体的な目標があれば、今度は目標に至るまでの道のりを具体化する。

「3ヶ月で3kg痩せる」のであれば、「2週間で500g, 1ヶ月で1kg, 2ヶ月で2kg, 3ヶ月で3kg」というマイルストンを設定できる。その上で、これからの2週間、「いつ」「どこで」「なにを」するか、箇条書きで書いていく。具体的あればあるほどいい。まったく頭を使う必要がなく、ただ指示通りに実行するだけでいい状態にする。行動計画は未来の自分への指示書であり、2週間後のあなたは今のあなたとは全く別人だ。つまり、赤の他人に行動指示を送るのだから、かぎりなく曖昧さをなくし、わかりやすくしよう。

本書では、「〜なら、〜する」型のリストの作成を推奨している。「6時になったら、家に帰る」「8時になったら、勉強机に向かい、資格取得の勉強を開始する」だ。もっといえば、毎日の時間割を作るのもいい。そして、毎朝、時間割通りに行動する自分の姿を思い浮かべてほしい。時間割をつくるだけでは片手落ちだ。自分の行動を頭でなぞることで、この「〜なら、〜する」型のスケジュールが、あなたの頭のインストールされる。

「ステップ3. 事前準備」のチェックリスト

  • 自分のみの周りを、目標達成のために十分に最適化したか
  • メンタル・コントラスティングを行って目標達成にいたるまでの障害を想定し、対応策を考えたか
  • 目標達成のための具体的な計画を立てる。目標達成に至るまでの毎日、「いつ」「どこで」「なにを」するのかすべて書き出す
  • 朝起きたら、今日一日何をするのか、頭の中であらかじめおさらいしておく。自分の行動をイメージしておくことで、時間通りに行動を開始するスイッチが入りやすくなる

ステップ4. 計画を実行する

さて、いよいよ実践の時だ。目標を持ち、計画も万全。あとは、決められた行動目標をひとつずつこなしていくことだけだ。ならば、もう目標は達成したも同然であるなんて、短絡的に考えてしまうと、思わぬ落とし穴に出会うだろう。けして、そんなに甘くない。人間がコンピュータのごとく与えられた実行計画にしたがって頑な行動できれば問題ないのだが、現実はそうではない。

人間は怠けるし甘えるし誘惑に負ける。初心は時とともに忘れられていくものだ。

計画通りに実行するためのアドバイス

必ずしも計画通りにことは進まない。このような時、どんな対策が取れるだろうか。他人ならば、賞罰を設定して、しぶしぶ行動に向かわせることもできようが、自己管理においてはそうはいかない。自分が嫌だと思ってしまえば、その自分を賞罰のアメとムチで動かそうとしても、けして動かない。心がポキンと折れてしまい、なにもかも嫌になって投げ出してしまうというのが関の山だろう。

では、どうするのか。自分の怠け癖や弱みを理解して、けして無理強いすることなく、自分が続けたいと思える方法を模索することである。そこで、ステップ2で実行した自分の癖への理解が生きてくる。落とし穴にはまらず、軽快に実践し続けるための秘訣を、本書から抜き出して紹介しよう。

1. 簡単なことをやるときは、「証明型」「獲得型」

既に経験済みで、少しの努力でできることを実行する場合には、「証明型」の考え方を用いて、自分の能力や成果を披露する場とみなそう。または、周囲がほめてくれる・報酬があるという結果を楽観的に期待する「獲得型」の思考も、効果的なモチベーションとなる。つまるところ、簡単な目標は、難しいことを考えずに、「やったらやった分だけいいことがある」と思って、とりあえず実行せよ。

2. スピードが必要なときも、「獲得型」。得られるものを意識する

今すぐメールを返す必要がある、けれど気乗りしない。明日までに宿題を終えないといけない。この場合もやはり「獲得型」が有効である。宿題を終えられれば自分への評価はあがるし、それだけで足りないというなら、さらに特別な報酬を自分に許してもいい。このタスクを終えることで得られるものがあるという明確なイメージが、目の前の仕事への動機につながるのだ。

ただし、スピードを意識すると、人間は本能的に最小限のコストで目標を達成しようという動機が生まれ、結果のクオリティは期待されるほど高くないかもしれない。これは時間をかけられないという制約から生じた当然の帰結なので受け入れるしかない。常にトレードオフは存在する。

3. 正確さが必要なときは、「防御型」、失敗の結果を意識する

反対に時間に余裕はあるが、十分な正確さや質の高さが求められることもある。博士論文が穴だらけの論理であっていいはずがない。こうした目標に立ち向かう場合には、失うものへの意識、つまり「防御型」が有効だ。たとえ博士論文の原稿を完成させたとしても、その中身がおそまつであり受理されなければ、何も得るものはない。慎重を期すべき時には、ミスのないように注意深く時間をかけて取り組むようにしよう。

4. やる気がわかないときは、「なぜ」やるのか理由を考える

やる気がわかないと行動せずにただ時間だけがすぎてしまう。やる気がわかないのは、やる意味がわからないからであり、つまり目標の意義、「なぜ」がぶれてしまっているからだ。たとえばただ身の回りの人がはじめたという理由だけで影響されて、ダイエットやランニングなどをはじめてしまった場合、自分の目標ではないため、意義はうすれやすく、やる気は消えやすい。その目標を続けたいと思うのなら、自分が納得できる意義を見出すために、ステップ1からやりなおそう。少し考えてみても、もう、その目標が魅力的に思えないなら、気持ちを切り替えて新しい目標に変えてしまえばいい。人生は短い。

5. 難しいことをするときは、小さなステップに分ける

これまでまるで経験したことのない目標に向かうときには、なにをすればいいのかわからず途方にくれてしまいがちになる。「はじめての子育てと円満な家庭生活」などはその最たるものである。こういった生活に関する目標は、子ども時代に大きなトラブルがなく親の保護のもとで幸せにすごせた人たちこそ、甘く見てしまいがちである。しかしいざ自分がやるとなると、うまくいかない。ここで最も陥りやすい罠が、パートナーへの個人攻撃だ。せっかく愛し合って共同生活をはじめ、子を授かったというのに、突然ここで互いに牙をむけあってしまうのである。

目標達成の心理学が説くのは、目標達成のための手順、つまり「何」に着目し、やるべきことを具体的にすることである。いい母親、いい父親とはなにか。皿を洗うことであり、おむつを替えることであり、トイレ掃除をすることである。こうして具体的にすれば、どれだって難しくない。

また、防御型の思考を意識し、何を失うのかと考えることも有効だ。家庭生活を崩壊させるよりは、素直におむつを替えた方がいい。それがまっとうな判断だ。

6. 誘惑に負けそうなときは、「防御型」になり失う物を意識する

禁煙、禁酒、ダイエットなど、過剰行動の抑制を目標とする場合に、必ず訪れる危機である。一口、一本、一杯くらい。。と誘惑はすべて同じ顔をしてやってくる。誘惑が強力なのは、期待される効果が即時にあらわれるのに対し、本来の目標には一見ほとんど効果を与えないように思えることである。

誘惑に打ち克つにはまず、目標の「なぜ」を思い出すこと。たばこを一本でも吸えば煙たくなり、パートナーから嫌われるかもしれない。酒は一杯飲めば下り坂を降りるトロッコに乗ったも同然である。その一度の小さな「失敗」が完全な敗北につながることを思い出そう。つまり、「防御型」の思考である。いまここで誘惑に負けてしまったら、これまでの努力も頭に描いた目標達成のイメージもすべてが夢の跡である。

「防御型」の思考の例として、本書では、チョコレートを手榴弾と見なすなどの例をあげているが、こういった思考は一度手榴弾を我が身に受けてしまったか、リアルにそれが起こることをイメージできる想像力が求められる。たばこのパッケージにおそろしい写真をのせても実際に効果がないのは、ほとんどの人がまだ肺がんになっておらずそのようなイメージを想像する力がないからだろう。

より効果的な防御型の考え方は、「これまでの自分の努力が失われてしまう」というサンクコストを意識することや、一度止まったら次に走り出すまでにものすごく時間がかかるという「将来のエネルギーコスト、時間コスト」への不安、あるいは、究極的には、もう二度と目標に向かっていくことができないという不安への意識のほうが効果的であると思う。

7. 時間のかかる目標は、過程を楽しむため、「自発的」な目標をたて、「習得型」で自分の成長を意識する

外国語の習得、「失われた時を求めて」の読破、プログラミング言語の習得。どれも一朝一夕にはできない目標である。こういった目標に向かうときには、自分の能力の成長や能力を習得していること自体に着目する。たとえ、学校の科目としてフランス語を履修しなくてはならないとしても、与えられた目標だからやるとすると長続きしない。授業を受講するたびに、フランス語が少しずつわかるようになりボキャブラリーが増えていくこと自体を喜ぼう。

長期に何かを成し遂げるには、「自分の目標」になっていること、定期的に自分の現在のスキルを測れること、そしてやればやるほど、自分の能力の向上が実感できるという環境が整っていることが重要である。学習日記やブログを書いて、自分の進捗を誰かと共有するのも動機の継続に効果的である。

「ステップ4. 計画を実行する」のチェックリスト

  • 進捗の記録と確認をしているか
  • 計画通りに実行できているか
  • 計画通りに行かない場合、適切な対処を講じているか

ステップ5. 計画を定期的に振り返る

さて、実際に計画を実行しはじめて、時折くじけそうなときにも、上記のアドバイスに従い、もっとも無理のないアプローチがとれるようになった。ここまでで、ある程度の難易度の目標はほぼ自力で達成できるようになっているのではないだろうか。特に目標を開始しはじめたばかりのときは、新しい発見があったりして、新鮮な心持ちでいられるため、比較的モチベーションは高い。

しかし、2週間、3週間と経ってくると、新鮮味が減りはじめ、だんだんルーティン化してくる。ルーティンになること自体は習慣化できているわけで歓迎すべきだが、同時に飽きがきてしまう。「なぜ」を意識して、目標の意味を思い直し、心を入れ替えようとするが、どうも当初のような晴れ晴れとした未来予想図は描けない。

そう、人生の重要な目標ほど、達成までの道のりは長く、一見単調にも見えてしまうものだ。毎日英単語を10単語ずつ覚え続ければある日突然英語が話せるかといえばそんなはずはない。徐々に色あせて見えてくる。自分が努力している間に、となりで遊びに夢中になっている友人の姿を見て、うらやましくなってしまうこともあるだろう。

そこで、重要なのがコーチの存在だ。といっても、プロにサポートを依頼する必要があるわけではない。もちろん専属のサポートを得ることは非常に強力であり、ぜひとも可能であれば考慮にはいれてほしいが、その話は今回はスコープ外とする。あくまで自分自身の力だけで目標達成する方法を考えよう。

すなわち、あなたが自分で実務担当者であると同時に管理者の役も演じるわけだ。管理と聞くだけで逃げ出したくなる人もいるだろう。管理・マネジメントという言葉は少し大げさに思えるので、個人的にはコーチとよぶ。

コツは、コーチになりきって、プレーヤーとしての自分を客観視する振り返りの時間を持つことだ。1時間の時間があるとして、プレーヤーとして熱心に行動する時間は多くて50分、短いと30分程度。残りはコーチとしての、進捗管理、難易度の調整、モチベーションの確認など、成功の確率をあげるための裏方作業に時間を割く。

進捗を管理し、記録に残す

コーチの目線を得て、まずやるべきことは現実を見ることである。ダイエットをしていれば、少し暴飲暴食をしてしまった翌朝に体重計にのるのを避けたい気持ちは痛いほどわかる。見たくないものに蓋をしてしまうのが人情である。しかし、情けはいったん脇によけて、コーチとして、生徒の体重を測る義務があると気持ちを入れ替えよう。自分の体重ではないと思えばいい。生徒のために計測し、記録をつけてあげるのだ。

こうして、進捗を把握し、記録をつけることは、正しい道のりを予測するためにも、ポジティブバカにならないためにも、反対にまるで成果がないと悲観しすぎないためにも、重要である。

行動計画を更新し続ける

実践の記録と進捗を取り続けているうちに、問題が発覚することがある。そもそもサボってしまっていて、行動が起こらないケース。このような場合には、以下のような対処法が考えられる。

(原因) 忙しすぎて行動の機会を逃している (対処) 行動計画に「〜なら、〜する」を追加して、忙しくても無意識にターゲット行動を取れるようにする

(原因) 複数の目標を追いかけていて、「他の目標」に邪魔されている (対処) 同時に大きな目標は一つしかおわない。また、行動計画の「〜なら〜する」 を更新して最優先で実行すべきことを明確にしておく

行動を続けているにもかかわらず成果が芳しくなかったり、効果が薄れてきたと感じる場合もあるだろう。万能の特効薬はないが、行動内容自体を見直すべき時期に来ているという示唆は概ねあてはまるはずだ。行動の実践時間を少し減らして、コーチとして改善案を模索にあてる時間を増やそう。

もし同じことを3ヶ月以上も続けていたとしたら、難易度をあげる、バリエーションを増やす、実行時間を長くするなど、目標と効果に応じて計画を見直す。これまでの実践では物足りないと感じるのは、あなたがすでに初心者から中級者になったという証とも言える。有識者の意見を受け入れるのも有効だし、本やネットで知識を得て、レベルアップを図ろう。

成功にいたるプロセスをイメージして、モチベーションを維持する

たとえどんなに高い山でもいつか頂上にたどりつくと信じているから登山家は山に登れるのである。あなたの目標もどれほどの高みにゴールがあろうともそこに至る道が見えているのであれば、計画を予定通りに実行することに苦を感じないはずである。きちんと日々記録をつけていれば、きっとやればやった分だけ、たとえわずかであってもゴールに近づいている感じることができるだろうからだ。

しかし、現実の目標の大半は、登山のように明確なゴールがあり現在地点から山頂までの道筋が描けるわけではないだろう。ダイエットは、自分の身体という生理現象を相手にしている。たとえ自分の身体からといってすべて意のままになるわけではない。むしろ、自分の意志に反して身体は身体として機能している。どれほど運動量を増やしても食事制限をしても、正しい方法でなければ、ゴールにはたどりつかない。

コーチである自分のゴールは生徒をきっちりゴールにまで導くことである。今のままできちんとゴールにまでたどりつくのかしっかりその道筋を見定めてみよう。白紙を一枚用意し、上をゴール、下を現在地点として縦に線を引く。現在地点からはじめて、ゴールにいたるまでにやるべきこと・起こることをすべて書き出してみよう。やはり、具体的に描くことを忘れてはいけない。石橋をたたいて渡るのことわざのように、目の前にある道筋のあちこちを叩いてみて、不安な部分がないか探ってみよう。このままこの道を進んで大丈夫だろうか。不安であれば、ぜひ知識のアップデートを試みてほしい。自分で勉強するもよし、先達や周囲の人にも教えをこうもよし。そして、さっそく「本を読む」「コースを受講する」「○○さんにコツを教わる」などを具体的な行動目標に入れよう。

また進捗の管理にも工夫を取り入れよう。どんなにダイエットをがんばっていても、自分の体重がまるっきり減らないのであれば誰だって努力を放り出したくなる。もしかしたら確認の方法が正しくないのかもしれない。体重だけではなく、筋肉量や体脂肪率を測定してみるのはどうだろう。 目標の更新が有効なこともある。ダイエットを、新たに挑戦しがいのある目標、たとえばこのまま運動を継続してフルマラソンを走りきるなどに変えてみるのはどうか。ただ我慢して食事制限や運動をするのは楽ではない。ならば、方法であったはずの運動を目的にしてみて、道中を楽しんでしまえというわけだ。

こうしてプレーヤーに成功までの道しるべを指し示し、モチベーションを高いレベルに維持しつづけるのが、コーチのもっともな重要な仕事である。ぜひ定期的に普段の行動計画の実行の手を休めて、コーチ役にまわる時間を作ってほしい。繰り返しなるが、1時間あれば、最低10分はコーチ役としてすごそう。もし苦境にある場合には、半分の30分を使ってもいい。

「ステップ5. 計画を定期的に振り返る」のチェックリスト

  • 進捗状況をきちんと測定できているか
  • 行動の記録をとりつづけているか
  • 定期的にコーチ目線で目標と行動計画の振り返りをできているか
  • 行動が実行されない場合、その阻害要因を特定し、取り除く処置はなされているか
  • 効果が薄れてきた場合に、計画や実行内容の見直しを行っているか
  • 自分のレベルに応じて、知識や実践方法をアップデートしているか
  • 現状から目標達成にいたるまでの道のりを丁寧にイメージできているか
  • このまま計画通りに続ければ、目標達成できると信じているか

最後に

かく言うわたしも、プロの書き手になりたいという目標をもっている。まだ成功したとはいえないけれど、これから道を歩き出そうとする自分にとって、力強く自分の決断を後押ししてくれて、最良のナビゲーターとなってくれそうなのが、本書であった。この記事をきっかけに、ハルバーソンの本を手に取り、新しい挑戦をはじめる仲間が出てきてくれれば、うれしい。


  1. 本書では「長短比較」という訳語があてられていたが、ガブリエル・エッティンゲン「成功するにはポジティブ思考を捨てなさい」では、そのままメンタル・コントラスティング、またはWoopの法則と呼ばれているものである ↩︎

comments powered by Disqus