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今非常に人気のMOOCを知っているだろうか?機械学習、プログラミング、データサイエンス?たしかにこれらのコースは人気だが、それをしのぐ、いや、それ以上に世界中の受講生の関心を集めている講義がある。それが、こちら。

“Learning How to Learn: Powerful mental tools to help you master tough subjects” (「勉強法の学び方: 難解な課目もマスターできる実践テクニック」)

講師は、オークランド大学工学部教授のBarbara Oakley。MOOCの配信元は、UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)である。

もともとは語学のエキスパートとして軍に従事しており、その後大きく方向転換して、システム工学の博士号を取り、そのままアカデミックに残って教壇に立ったり研究を続けてきたという経歴の持ち主だ。要するに、__「文系出身のわたしが、理転して工学部教授になるまで」物語の主人公が、自分の経験と自分のリサーチを元にどのように効率よく勉強すればいいのかという、実践的なアドバイス集__になっているのである。

コースは4週間。毎週おおよそ合計1時間程度の講義と、入念な理解度チェックテストで構成されている。集中力のある人なら1日で終えられるだろうし、通勤通学の合間に学習しても1−2週間あれば余裕をもって終えることができるだろう。

内容の面白さに加えて、教材のコンパクトさゆえ気軽に受講できると言うことも、人気に拍車をかけていると思われる。

このコースでは、試験対策の勉強には特化しておらずより広い意味で勉強をとらえている。理系の大学生に向けた話が多いが、実際にはあらゆる種類の頭を使う勉強に使えるものである。

さっそくこのコースの内容をダイジェストで紹介したい。

勉強とは何か

そもそも勉強とはなにか。それは、今まで知らなかった概念を理解し、その概念を使って問題を解くことができるようになる、あるいは議論を発展させていくことができるようになることである。

__理解のプロセスには、「集中モード」と「拡散モード」の2つの脳のモードを使うことが必要__だと言う。集中モードとは机にかじりついて一生懸命記憶していたり問題集を解いている時を想像してもらえばいい。まさに自分の頭がフル回転しているような瞬間だ。反対に、拡散モードは、ソファの上にすわってぼんやりしていたり、ゆっくり静かな場所を散歩しているような瞬間だ。

勉強は、「集中」だけでない。概念を理解し、「あっ」とわかる瞬間はむしろ「拡散」のときにやってくると言う。

チャンキング

たとえば、微分という概念を理解しようとしたとき、理解せずに、ただ次の公式を覚えるのは苦痛でしかない。これはまずいやり方である。

そうではなく、すでに自分が知っている概念とむすびつけて、ジグソーパズルのピースをつなぎあわせるように、知識をつなげていくことが効果的である。たとえば、

  • 幾何学と関連付けて、「二次関数の接線の傾き」という概念とつなげる。
  • 物理学の運動の法則と関連付けて、「加速度」という概念とつなげる。
  • 機械学習と関連付けて、「最適化」という概念と関連付ける。

このように、ふわふわ大空に浮かぶ風船を捕まえるように覚えようとするのではなく、すでに自分が組み立てた知識の城の中に取り込み、既に知っていて関連のあることと隣り合わせに配置して学ぶことを、チャンキングという

チャンクという言葉がわかりづらければ、チェーンでもいいと思う。トランプといえばアメリカ大統領、という連想ができるように、新しい概念(ここでは微分)も連想可能な概念とくっつけていくことが大事なのである。

記憶術

勉強において、概念の理解とあわせて重要なのが、記憶だろう。覚えるのが苦手という人は多い。ここでは、

  • 視覚的イメージを最大限活用する(「記憶の宮殿」テクニック)
  • 語呂合わせやだじゃれ、アナロジーでおぼえる(日本史の年表でおなじみ)
  • 間隔反復練習をする(Ankiアプリや忘却曲線の話)

という具体的なテクニックが披露される。

先延ばし

このコースのユニークな点が、やる気が出ずについだらだらと教科書を放りのけて遊んでしまう、あの「先延ばし」への対策が丁寧に語られているところである

そもそも、なぜわたしたちは、勉強をいやがるのだろうか。実は習得していない段階では苦手意識が先行してしまい、それが痛みに似た症状を脳内で引き起こしているのである。そして、煙草やドラッグの常習者が一時的な快楽でそっと悪しき習慣に手を伸ばすように、痛みを避けるために、わたしたちは、勉強を先延ばしして、ゲームやネットなどの楽な時間の過ごし方を選んでしまうのだという。悪しき習慣を断ち切ることについては、以前禁酒についてのブログを書いており、なじみがある。

ここでもまた、意志力で乗り越えるのではなくて、習慣の力を利用することをすすめられている。

習慣の力を利用するとはどういうことか。具体的には、

  1. トリガーを用意する(Cue)。ポモドーロタイマーをオンにするとか、携帯の電源をオフにするとか、静かな図書館に移動するとか、勉強をはじめるための、儀式めいた手順をもつと、自然と勉強する体制にはいれる。Cueとは、キュー出しのCueである。
  2. ルーティン化する(Routine)。毎日決まった時間に同じことをやるのはすごく脳にとって楽である。無意識で自動的に机に向かえるようになるくらいの日課にしてしまえるといい。
  3. 報酬を用意する(Reward)。ちょっとしたごほうびを自分のために用意しよう。チョコレートを食べる、恋人に電話する、漫画を読む。「勉強を終えたら、うれしいことが起きる」というパターンを作るのは、行動の強化にとって重要な要素である。
  4. できると自分を信じること(Belief)。勉強の習慣を身につけられる、それによって希望する資格が取れる、あるいは憧れの職業につける。こうした望みを強く持てば、今の時間を無駄にするわけにはいかないと、現在の日常生活を変えていく勢いが自分の中から生まれてくる。

さらに、次のようなテクニック(ハック)が紹介される。

Focuse more on PROCESS than PRODUCT  レポートを完成させるという結果に目を向けると大変だ難しいというネガティブな感情が湧きやすい。むしろ、今日は1時間レポートを書く、というProcessに目を向けてとにかくその行動がはじまるようにしむけること。

Set the quitting time  終わりの時間を決めておく。

Write the next day tasks before you go to sleep  寝る前に次の日のタスクを書き出しておくと、寝ているあいだに定着し、次の日に実際に達成しやすくなる

Make use of zombine mode  ゾンビモードとは習慣の力で動いているとき。意志力を使わずとも行動に移せるようになっていること

Split your time with Pomodro and give you a little reward after eadch session  ポモドーロで集中する時間に区切りをつけ、セッションごとにちょっとしたごほうびを自分に許す

Avoid procrastination cues - Hide away from them  集中力を妨げる環境にいてはいけない。快適で集中できる場所に逃げること。精神力で乗り越えるべきではない

まさに、金科玉条である。特に、ポモドーロでペース配分をつけるのはとてもおすすめである。3時間まるっと集中するのはむずかしいが、25分を6回繰り返すとなると、意外とできてしまうものである。ぜひ実践してほしい。

その他

わたしは学生ではないので、聞き流していたが、グループワークやテストでの心構えについても触れられていた。グループワークでは問題をだしあいっこするのが効果的、ただしさぼる理由にもなりかねないので注意。テストでは難しい問題から解きはじめる方が「カチッ」と脳にスイッチが入ることなど。

とにかく知識を貪欲に吸収したいと思っている大学生全員に強くおすすめできる内容だ。世界中で非常に人気の講義ですでに20数カ国語の字幕翻訳がつけられているが、日本語ははじめの1-2本のみで完成していない。英語でしか受講できないことが、日本人学生の受講をさまたげているのかもしれないが、気負わずに気軽に見始めてほしい。

万が一英語のハードルが高いと思われる場合には、副読本である「直感力を高める 数学脳のつくりかた」で事前にある程度内容を把握してから動画を見るのもいいだろう。本の内容と講義の内容はほとんどがかぶっているので、本当に英語が苦手だという場合には、本を一読するだけでも価値はある。

Courseraのコースはこちら。 [https://www.coursera.org/learn/learning-how-to-learn/]

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